【さよなら俺の夏の青春】

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 夏と言ったらやっぱり海とか山とか、こんだけくそみそ暑くて毎年熱中症患者が右肩上がりであっても、人はレジャーという魔物に取り憑かれているもので。  かく言う俺も少し前までは、断然海派で一夏のアバンチュール探しに余念がなかったクチだが。  先に言っておくぜ。みんな、浮かれすぎは禁物だってな。  けどなぁ、確かに彼岸が過ぎた海はクラゲが出るから行くんじゃないよと、曾祖母に言われたような記憶はあるが、昨今の残暑は十月まであるんだ、プールじゃ芋洗い状態だから、まぁ別に泳ぐのが目的じゃないし? てな、軽い気持ちで、その日、俺は一人暇だったので、地元から少し足を伸ばせば届くS街の海へフラリと行ってみたら、え、嘘、マジかよってくらい美人で可愛いい子が、具体的に言うならロングでストレートの黒髪を海風にたなびかせて、夏の象徴でありながらどことなく哀愁も感じさせてくれる麦わら帽子、色白だからか余計に大きく見える瞳に、鼻筋はさほど高くなかったが、小さな赤い唇にはそれが逆にとてもよく似合っていて。  しかも腰回りを大きめなリボンで押さえているワンピースまで白って、これ、絶対に海が目的じゃないよね、ナンパされに来たんだよね、だったら俺が声をかけても悪くないよね!?  一気にテンションが上がった俺は、 「かーのじょ」  ハートマークを付けようか、音符マークを飛ばそうか考えたが、そのどちらもこの可憐にして儚げな美少女には合わないと思ったから、そう呼び掛けるだけに留めておいた。そして、 「一人? 俺も一人なんだ。良かったら少し話でもしない?」  無言のまま俺を振り返ってきた彼女は、想像通り正面顔もこれでもかってくらい整った美少女で。 (いやこれ、どっかの事務所に所属してるとか?)  女の子は好きだけれど、アイドル好きとは一線を画してる俺が疎いだけで、もしかして一般ピープルが声をかけたらまずかっただろうか、とさすがにどきまぎしていた俺に、彼女は見た目を裏切るテノールの声で、淡々と、むしろ呆れた様子を隠さず言ったのだった。 「まさかな。本当にこんなんで釣れるとは。あいつの提案を聞いた時は、そんな馬鹿なと思ったものだが、そうかそうか、生きている人間ってのはここまで愚かなものなのか」
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