【さよなら俺の夏の青春】

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 声さえ聞かなきゃこの見目だ、本当に彼女だったらどんなにか、と思った俺の最後の夢さえ破ってくれたのが、社殿の裏に小さめサイズの稲荷神社を見つけた時だった。稲荷なだけに社の前に二匹の狐がいるべきところに、一匹の足が欠けていたのだ。  そういやアイツ、俺と出会った時、誰それのいうように美少女に化けていた甲斐があるとは云々とか言ってたよな……。  いやでもまさかな、とその小さな伏見稲荷に背を向けたその真後ろにヤツが立っていて!  やめろ、そういう驚かし方は! と、俺がバクバクしている胸を押さえながら心の中で叫んでいたら。 「ほんにお主は勘が良いのぉ。さよう、妾はこの稲荷の狐じゃ。足があり動けるからこの五郎神社の有事の際には右埜と共に人働きと相成っていたのじゃが、心ない小童のせいで右埜の足が欠けてしもうてな、それゆえ、おまえのように妾が見え、それなりに使えそうな奴を探しておったんじゃ。それにしてもそこまで見抜けるとは、お主、実は神主か巫女の血筋でも引いておるのか? それにしては盆も終えた海に来るとは軽率じゃがな」  あーもーこれで完璧分かりました。つまり全ては俺の身から出た錆ってやつだってことは。  曾祖母は巫女というほどではなかったが、隣近所にはそれなりに知られた失せ物探しの達人だった。それも、本人を前にしただけで、探しているものとそれがある場所を言い当てるような。  その祖父母が生まれたばかりの俺を見て言ったそうだ。「おのこのくせに厄介な質を背負って生まれてきたの」と。  そして俺の名前はその曾祖母が付けたのだった。木偏に秘密の密で「樒(しきみ)」という名は、榊ほどではないが仏教と縁のある蔡木で、けれど他の神木系の木と大きく異なるのは毒性を持っていること。良くも悪くも『神』は祟るモノだから、魔除けと神徐けの意味を持たせてせっかく付けてくれたというのに─── (ひいばぁちゃん、ごめん)  けど俺は今、良いことを手に入れた。  この足の壊れた御キツネ様が『右埜』ということは、こうして俺を濃き使っているコイツの名前は恐らく。
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