1:Slow Air

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「レオナルドよ、国王としてそなたに命じる。ジャパンに向けて出立し、諸侯の一人であるオダ・ノブナガより《太陽の雫》を取り戻すのだ」  それが、王子レオナルドに下された最初の王命だった。その意味するところは、彼が最早ただ国王の仔ではなく、後継者として負うべき責務を担うということである。  アジアの果てまでの航海は、決して順風満帆な旅ではない。大波、嵐、海賊、反乱、凪の海……東洋の黄金郷を目指した多くの冒険者が命を散らし、数多の船が深淵の藻屑となった。  その只中に飛び込み、死境を乗り越えて成し遂げねばならないもの。時に己の手足、時に無二の友すら捨てねばならずとも、投げ出すことの許されないもの。それが王命だ。 (……もう少しだけ、のんびりしていたかったのにな)  レオナルドは、心の中でそっと呟いた。いずれは大人の一員として政に関わる時がやってくる。剣技も練習し、勉強もそれなりにやって、その覚悟はしていたつもりだった。それでも、もうしばらくの間は何も知らない子供のままでいたかった。それがレオナルドの本心だ。  けれど、猶予時間は使い果たしてしまったようだ。これからは猫の国を動かしていく舵をレオナルドも握ることになる。  レオナルドはぎこちないながらも、作法に則って国王ライオネルの前に跪いた。 「はい、父上。謹んでお受けいたします」     
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