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やがて近づく音は止み、重なり合うラベンダーの穂の隙間から、きらりと光る金色の目が二つ覗いた。まん丸で大きな対の眼には、真ん中に黒く細長い筋が入っていて、その持ち主が今まさに獲物に飛び掛からんとしているのが分かる。
潜伏するハンターはじっと息をひそめて、獲物が隙を見せる瞬間を待ち構えた。あっちへふらふら、こっちへふらふらと、酔っぱらったように飛び回る蝶を、二つの眼がきょろきょろ追い回す。
やがて、黄金色の眼の真正面にあるラベンダーの穂に蝶が止まった。たっぷりと蜜を吸った蝶はすっかり動きが鈍くなっている。
次の瞬間、茂みの中の潜伏者は一気に中へ飛び出した。
「そーれっ!」
それは、真っ黒でとても大きなネコだった。それも人間の子供くらいはありそうなとても大きなネコ。
しかもただ大きいだけではない。ラベンダーで染めた薄紫のリネンシャツと茶色のショースを着て、足にはなんと革靴も。
まるで人間のような格好をしたその黒猫は、両前足の指を目一杯広げて蝶をその手に捕まえようとする。
しかしそれが届くよりも先に、蝶はふわりと羽ばたいて飛び立ち、肉球に叩き潰される最期をすんでのところで回避した。
「あっ!」
黒猫の爪はむなしく空を引っ掻き、勢い余って頭から地面に突っ込んだ。派手に花びらを散らかしながら、黒猫はごろんと仰向けに転がる。
「……気持ちいいなあ」
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