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その外れの方に布張りアーチ屋根のひときわ大きな建物が造られている。人間やほか種族の妖精との商取引を行うアーケード市場だ。人間であっても立ったまま入れるように設計された建造物は街のどこからでも望めるほどに巨大で、まさにメアリーストンの象徴ともいえる存在だった。
「……全ての道はローマに続く。つまり、この城から続く道も世界の全てに繋がっているということだ。分かるか? レオナルド」
灰色と黒の固い岩で築かれた王城。最上階の執政室からはメアリーストンの全てが見渡せる。
たくさんの丸いガラスが枠に嵌められた採光窓は、外の景色を蜂の巣状に分割する。そこから差し込む光もまた、石造りの質素な室内に幾何学模様を映し出す。
猫の国王ライオネルは、窓ガラス越しに外を眺めていた。自身の『世界』という言葉に何か思案を巡らせるようにして、ずっと遠くを見つめる。
レオナルドがそうであるように、その父であるライオネルもまた黒猫だ。しかし、王を名乗るに相応しい風格はライオネルだけが備えている。数々の戦をくぐり抜けてきた戦士の身体は年を重ねてもなお衰えず、やせっぽちのレオナルドなど片手で投げ飛ばせるだろう。
羽織っている上着は金糸が織り込まれた豪奢なもの。ベルベット生地の鮮やかな濃紫色は、この国の富を築いたラベンダーを象徴している。彼が始めたラベンダー栽培は、香料、染料の交易によってメアリーストンに莫大な収益をもたらした。
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