1:Slow Air

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 ライオネルの鋭い金眼は常に未来を見据え、地平線のさらに向こう側を見ているのだ。 「……この街に入ってくる品物はとても遠い遠い場所からやってくる。昨日ナイオルが作ってくれたミートパイ、あれに入ってたナツメグも、海の向こうのアジアから運ばれたものなんだよね」  問いかけに対してレオナルドは毎日食べている料理のことを考えた。王族の食卓に並ぶものは常に最高級の材料が使用され、最も仕入れるのが難しいスパイス類は貴重な贅沢品だ。  胡椒、ジンジャー、シナモン、クローブなど、西ヨーロッパではどれも手に入らないもので、これらをメアリーストンで口にできるのはこの王城の中と一部の豪商くらいのものだろう。 「そうだ。だが香辛料だけではない。お前も使う銀食器だが、この十年でかなり値が下がっている。銀そのものの価値が急に低くなったのだ。その原因は――」  ライオネルは棚の上の地球儀を持ち出し、机の上にどんと置いた。そしてぐるぐるとまわしてから、ある一点を指差した。 「ここだよ、レオナルド。新大陸だ。ここからたくさんの銀が掘り出されて、以前よりも手に入りやすくなったのだ。遥か海の向こうの出来事がこの小さなメアリーストンに影響を与えているのだよ」 「新世界……アメリカ大陸」     
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