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01_噂
その町の噂は、山沿いの小さな村で聞いた。
一度訪れたものは、その町のパンの味が忘れられず、町に定住してしまうというのだ。しかも住人は与えられたわずかな仕事をこなすだけで、十分な量の食事と、不足のない衣服や住まいを支給されるという。
そう話す老人は、昔偶然その町を通りかかり、半日ほど町を見物して回ったそうだ。自慢のパンを食べていこうとしたが、不思議なことに飲食施設や売店がひとつもなかったという。
パンや住まいに興味はなかったが、俺はその町の医者の話が気になった。医者への信頼は絶大で、住人たちは敬愛するどころか、もはや崇拝するといっていいほどだったというのだ。それほどの腕の持ち主なら、プライムの病気について、何か知っているかもしれない。
目を閉じて息をせず、脈も打たず、それでも薔薇色の頬と暖かい体温を保ったままの女房、プライムを背負って、俺はその町を目指した。
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