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返事をする時間ももったいないと思えるほどだ。声もなくうなずいた俺に、主人も満足そうにうなずき返す。
「食ってもらえばさぁ、わかるんだよなぁ、誰にだって」
あははは、と声を上げて笑う。まったくだ、と俺は思った。いくら言葉を尽くしても、この感覚を体験したことのない相手にこのパンのうまさが伝わるわけがない。俺は、あっという間に大きなパンをまるまる食い尽くしてしまった。
無意識にせがむような目を向けていたらしい。主人が肩をすくめて見せた。
「悪いねぇ。パンは毎食ひとつって決まってんのさぁ。ここで作れる小麦の量にも限界ってのがあるし、それに……」
好きなだけ食ってよかったら、みんな腹が破裂して死んじまうだろ? そう言って主人はあはははと笑った。なぜか無性におかしくて、俺も少し笑った。
食い足りない気持ちを残りのシチューと果実酒で腹の底に流し込む。どうやら果実酒には制限がないらしく、主人は空になった俺のグラスに酒を注ぎ、自分も持ってきたグラスを満たした。
「んじゃ、乾杯だスコウプさん。この町のパンに」
「ああ、この町のパンに」
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