03_楽園

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 そのまま数杯飲み進め、俺と主人はたわいのない会話で笑いあった。こんなに心を許して人と笑いあったのは何年ぶりだろう。旅を始める前、いや、冒険者を志す前かもしれない。いつもなら必ず首をもたげてくる自制心や警戒心が、今日はさっぱり起きてくる気配がなかった。ふんわりとした酔い心地に身を委ねて、旅にまったく必要のない話をし、聞いて笑う。宿の亭主はマルコスという名前だとかで、よくある名前だなと言って俺は笑った。マルコスも、よく言われるぜぇ、と言ってガハハハと豪快に笑った。  月が高く上り、深夜にさしかかったころ、マルコスは笑いすぎてあふれた涙を拭きながら、窓の外を見てあーと声を上げた。 「すっかり遅くなっちまったねぇ。あんまり起きてると夜中に腹が減っちまう。そろそろ寝ちまわないとなぁ~」  腹が減るという言葉すらおかしくて、俺は思わずはははと笑った。確かに笑い疲れている。めったに笑わない俺にとって、笑い疲れる、という経験自体、おそらく初めてだ。 「さぁ、スコウプさんも寝ちまいなよぉ。朝食は明るくなってからじゃないと届かないから気をつけるんだぜぇ?」  心身ともにふにゃふにゃになったような心地よさのまま、俺は寝室に向かった。飲みすぎたかとも思ったが、平衡感覚はいたって正常で、めまいのひとつも感じない。それなのに、どんなに酔っていても怠ったことのない部屋の戸締りを忘れたまま、俺は布団にもぐりこんで深い眠りに身を投じていた。
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