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ああそれなら、と言って男が案内したのは、結局宿屋だった。
「チェックインしてマルさんに言えば、すぐに呼んでもらえるから~」
子どものように大きく手を振って帰っていく男を、宿屋の主人は朗らかな笑顔で見送る。マルさん、というのは宿の主人のことらしかった。
「お客さん、すまないねぇ。今日のランチはちょうど終わっちまったとこなんだ。お客さんの来たことは伝えておくから、ディナーはちゃんと用意できるんだがねぇ」
宿帳を書きながら、ひげ面の主人はひどく申し訳なさそうに言った。
「予備はないのか」
「焼きたてのパンが、きちんと人数分配られるからねぇ。取り置きはできないんだよ」
もともと俺は、移動中には一食か二食しか食わない。その気になれば二、三日は水と塩でどうにでもなるくらいだ。いざとなれば携帯食にもまだ余裕がある。一応訊いてはみたものの、昼飯がないことくらいなんとも思わなかった。
俺とプライムの名前を宿帳に書き終わると、宿の主人は二階の客室に俺を通した。掃除も行き届いているし、家具も布団も贅沢なくらいだ。部屋の値段を聞くと、主人は大口を開けてあははは、と笑った。
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