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「この町ではね、お金なんて使わなくていいんだよ。村の畑では小麦がたくさん採れるし、必要なものはカイラたちに言えばたいてい持ってきてくれるしね」
「カイラ?」
「青い制服の彼らさ。一応あれでも、他の町なら役人とか憲兵みたいな役割らしいんだけどね、戦うことなんてここではめったにないし、まあ、住民のお世話係みたいなもんさ」
無料というのは少々気味が悪かったが、受け取らないのなら払うすべがない。俺が眠ったままのプライムをベッドに寝かせると、宿の主人は医者を呼びに町へ出て行った。
医者はすぐにやってきた。白髪の上に独特の赤い帽子をかぶっていて、それがこの町では医者を表すようだった。
プライムにかけてやった毛布をはがす。白いネグリジェを着た細い身体が露わになった。俺自身がどんな目に遭っても、彼女にだけは今まで傷ひとつつけさせていない。プライムを治すためなら、何年かけてでも、あらゆる可能性を探す覚悟ができている。彼女は、今では俺の存在理由そのものでもあった。
病状を説明しようと俺が口を開きかけたとき、プライムを一目見た医者は、間延びした声でありゃあ、とつぶやいた。
「こりゃ僕の手には負えないなぁ。町長さんとこに連絡しておくよ~」
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