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締まりのない態度と、きちんと診察もせずに下した見立て。俺は一瞬にして腹の底が沸き立つような感覚を覚えた。何日もかけて会いに来た医者がこの有様だ。喧嘩っ早いのはロクな結果を生まないことはわかっていたが、俺は半ば無意識に医者の襟首をつかみあげていた。
「てめぇ、ちゃんと診る気あんのかよ!? 病人目の前にしてふざけやがって!」
ところが医者は襟首をつかまれたまま、あはははと笑った。
「やだなぁマルちゃん。この人クッキーでも食べたのぉ? 怒ってるよ~」
「さっき来たばっかりだからねぇ。まだランチも食べてねぇんだぁ~」
どうにも調子が狂う。いくら不自由のない町だからといって、こんなにも住民の緊張感がなくなるものだろうか。
「とにかく離してよぉ。ほんとに僕じゃわかんないんだからさ。町長さんならもしかしたらわかっちゃうかも~」
いい歳して、なにが『わかっちゃうかも』だ。半ば突き飛ばすように医者を離すと、小太りの医者は床に盛大にしりもちをついた。宿の主人と医者が同時に、大口を開けてあははははと笑う。いい加減、この町ののん気さが癪に障ってきた。
「遊びに付き合ってる暇はねぇ! 診られる医者がいないなら、長居するつもりはねぇんだ。町長でも大統領でも、今すぐ呼んできやがれ!!」
かなり大きな声を出したつもりだった。だが一瞬の静寂のあと、判で押したような同じ笑い声を二人は同時に発した。
「あははは、大統領だって~」
「あははは、怒ってるねぇ~」
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