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バン、と激しい音を立てて椅子がひとつ壁際まで飛んでいって砕けた。俺が怒りを咄嗟に椅子にぶつけたせいだが、ここまでイライラさせられて、相手を傷つけていないことをほめてもらいたいくらいだ。とはいえ次に笑ったら、前歯の何本かを勉強料に、こっちの真剣度合いを教えてやるつもりだった。
さすがにまずいと思ったのか、大声で笑うのをやめた二人は、それでもまだ肩を震わせて笑いを押し殺しながら、まあまあ落ち着いて、などと俺をなだめはじめた。
「ちゃあんと伝えておくから心配しないでってば。町長は忙しい人だからねぇ、すぐには無理だけど、明日には会えると思うよぉ」
「町長はこの町を作る前はお医者さんだったからねぇ。きっと病気のことはいっぱい知ってるんじゃねぇかなぁ」
憮然としたままの俺に、医者はかばんから書類の束を出してみせ、えへへと愛想笑いをした。
「だって僕はね、こっち専門の医者なんだよ」
書類には診断書と書かれていた。
「以下の者の空腹状態を認める……だと?」
「うん。この町のパンは、決まった時間にしか焼きあがらないからね。理由があってパンが必要なときは、僕たちが診断書を書くんだよぉ」
「腹が減ったことを医者が判断するのか!?」
そうだよぉ、と医者は間延びした返事を寄越した。この町の住人とは、話をすればするほど混乱するようだ。
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