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一度や二度、同じことが起こったくらいじゃ、それは『偶然』という言葉で片付けられるかもしれない。しかしそのことが十回、二十回───とまでいかなくとも、五回六回と回を重ねていくごとに、『怪しい』という思いが生じるのは当然だろう。
俺には雨の日に必ず会う少年がいる。奴とは雨の日だけしか会うことはなかった。奴も俺同様、傘を片手に、自転車を漕いでいた。
奴の存在に気付いたのは、今年の梅雨に入ってしばらく経ってからだった。その頃もよくおふくろに、傘差し運転は危ないから止めろだの、雨の日くらいは歩いて行けだのと言われていた。
確かに傘差し運転ってのはすなわち片手運転となるわけで、とあるバス内のキャッチコピー───にないこそすれ、まぁおふくろの言う危険もわからないでもない。
しかし、目が覚めた時に雨だと気付いても、時間ギリギリに起きると同時に家を飛び出し、自転車のペダルを高速回転させて走ること数分、それに乗れば本鈴の一分前に学校に着く芸当をものにしている俺としては、雨だから歩いて行こうなどといった悠長なことしてられないのだ。
それならもう少し早く起きろと人(「人」と書いておふくろと読む)は言うが、それが出来れば俺だって苦労ないぜ。朝の五分がどれだけ貴重なものであるか、遅刻常習者寸前の者なら身にしみてわかるはず。
とまぁそんな訳で、俺は危険を承知で雨でもかまわず駅まで自転車で通っていたのだが。
「さすがに雨だと、人が少ないよな」
いくら曲がり角の多い抜け道といえども、いつもなら数人は自転車に乗った人に会うものなのに、雨の日ばかりは会う人がいるかいないかといったとこで、何となく後ろめたさみたいのを感じながら、駅に出る最後の曲がり角を曲がった時、俺はそいつに会った。
奴は俺の高校がある駅より一つ先にある学校の制服を着ていた。自転車を漕ぐペースはすごくのろく、角を曲がった数秒後には俺の視界から消えていた。俺は肩越しに振り返り奴を見た。奴は俺が見ても危なっかしいくらい、傘を前に倒していた。
「事故にでも遭わなきゃいいけど」
そんないらぬ心配をしたのを俺は覚えている。その次の日も同じ場所でそいつに会った。相変わらず傘は前を隠すようにして差していた。
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