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「ま、まってよ。お兄ちゃん」
「ティア、早く来なさい」
“ティア”と呼ばれた少女と、その少女から“お兄ちゃん”と呼ばれた青年が、非常灯の青白い明かりが照らす薄暗く細長い廊下を足早に駆けていく。
華奢な身体にあどけなさが残るティアは、不安と恐怖で顔を青ざめさせていた。
一方、整った顔立ちの青年は険しい表情を浮かべていたが、ティアの方に顔を向けると、不安を少しでも拭いさるように優しく微笑んだ。
青年は研究者らしい白衣を羽織り、右肩にはショルダーボックスをかけていた。
ティアは自分より二倍ほど身長がある青年の白い背中を見つつ、後を必死に追いかけていた。自分の短い足では青年の長い足の歩幅に差が生じて、徐々に離されていく。その距離を縮めるために、必死になってせかせかと足を動かした。
二人が走るのは、最先端の科学と技術で作られた研究所の地下研究室に通じる廊下だった。
二人の足音と共に辺りは揺れ、天井から埃がパラパラと降ってくる。二人が走った振動ではない。天から降り注ぐ無数のミサイルによる爆撃のせいだ。
「お兄ちゃん。ここ……大丈夫なの?」
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