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晩夏の候。
「何だよ、みんなして」
突然実家の割烹屋に呼び出された笠井徹弘は、自分の両親のほか従業員全員が顔を揃えた大広間の景色に、思わず素っ頓狂な声を上げる。
──大正時代に建て直した『割烹旅館』とあって、広い敷地に見合うほど屋敷は広大だ。
時代柄、旅館の方は近年になってやめてしまってはいたが、昔ながらの建築手法で建てられた広間は良く手入れがされていて、強引に現代建築を取り入れてしまった皺寄せで生じるおかしな古めかしさを感じさせることはなかった。
「金屏風でもあったら結婚式でもできそうだな、ガッさん」
綿が厚く入れられた揃いの座布団に正座している従業員を前にして、ピリッとした雰囲気を纏う両親と肩を並べて横一列に座る大工の棟梁・道重学に声をかけながら、遅刻してきたくせに悪びれる風でもなく長い足を見せつけるように歩を進める。
たくさんの人がいるということに動揺するでもなく、堂々としたウォーキングを披露するように歩いた徹弘は、高座に空いていた座布団に胡座をかいて着席した。
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