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(やれやれ)
今だ宏信と向き合わず、こうして日がなぼんやりと一日を過ごしているであろう父親の後ろ姿を見ていた宏志が再びため息を零したその時、新たなる来客者の姿を目にしたその唇から、
「宏信」
と、弟の名が意図せず漏れ出た。
その途端、学の背中が揺れ、自然と背筋が伸びたかと思うと、纏う空気が怒れる気持ちで一変する。
「どうした?」
急に姿を現した宏信と徹弘の、長い廊下を身を寄せ合い歩いてくる姿に気をとられている宏志は、学の変化に気がつかず、そう問いかける。
しかしその傍にいた美瑛はそんな学の変化に気がつき、宏志たちを横目で見ながら、胸が騒ぎ出すほどの不安に駆られていた。
「挨拶回りが、殆んど終わったから…報告に来た」
足の凍傷の具合が思ったよりも酷く、治癒の状態がよろしくないため支えがなければまだ上手く歩けない宏信を気遣って肩を貸す徹弘が姿を現すと、恐い顔をしている学を気遣わしげに見上げていた暁がぱっとその表情を一変させ、学の膝から転がり落ちるように下りた。
「テツくん!」
「お~、暁ちゃん!」
「あ、おい」
全力で駆け寄ってくる暁を抱き留めるため、宏信を支えていた腕を外して身を屈めた徹弘へ、支えを失った宏信は眉を潜めて呼びかける。
愛する男を支えることより、レディーファースト、と、己れの流儀を貫いた徹弘を睨むように見た宏信の肩を、宏志が代わって担ぐ。
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