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「わ」
悪い、と、兄に対して礼を口にしようとした瞬間、
「どの面下げて、ここに来た」
とドスの効いた声が投げかけられ、宏志と宏信は、すっくと立ち上がった学の方へ、動きを揃えて顔を向けた。
「おれの目の色が黒いうちにこの家の鴨居を潜るとは、いい度胸だ。──死ぬ覚悟は、できてるんだろうな?」
時代が時代なら、言葉通り隠し持った刃物をを振り回しそうなオーラを纏って宏信を睨みつける学に対し、暁を抱き上げた徹弘が
「ガッさん、そろそろノブのこと許してやってよ。 息子だろ?」
と、能天気な声で話しかけた。
「てっちゃんは黙ってな。 こりゃあおれとこいつの、タイマンでナシつけねぇとならねぇ話なんだ」
「いーや、黙ってらんねぇな。オレはもう、ガッさんの息子同然なんだからな」
強い口調で学が威嚇するも、動じることなくそう言った徹弘の表情は飽くまで明るく、声のテンションも平素と何ら変わらない。
その態度はまるで、怒れる学をからかっているようにも見えたが、学と真剣に話し合いに来た徹弘は、話を止める気はないらしく、
「ん? セックスの時抱かれてんのはオレだから、嫁なのか?」
と、腕の中に未成年も未成年、今年から幼稚園に通う予定の暁がいることも忘れて際どい言葉を口にした徹弘を、美瑛が
「テツくん、そういう話はあとでして」
と小声で耳打ちをし、窘めた。
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