狂気の渦中

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「はぁー……」  紙藤(かみふじ)悠季(ゆうき)は手にしていた書籍から顔を上げ、ため息とも感嘆ともとれる声を発する。 「…………」  よくわからない作品だった。本編は純愛もので、むしろ楽しく読めたのだが……、奇妙な後書きだった。 「実話……ではないのかな? 即座に否定しているし……」  悠季がこの本を読んだのは、とある『噂』があったからだ。 『読んだ人間が謎の死を遂げる本がある』  老若男女問わず、誰であっても、怪死した状態で発見される。  どのようなものかはわからないが、自殺では到底ありえないような死体らしい。  このような内容が、ネットの都市伝説掲示板にあったのだ。  もともと都市伝説が好きな悠季は、なんとかしてその本を探し出した。そして、その日に読んで今に至るというわけだ。  感想はさっき言った通り。だが、やはりあの後書きが気になってもう一度読み返してみる。 「作者の奥さんのお母さんが死んで……、奥さんが病んで……、死んで……」  奥さんを滅多刺し。  いくら後書きとはいえ、本編は恋愛小説だ。こんな不気味な後書きをよく出版社が許したものである。  ここまでの内容だと、もはや自費出版かもしれない。  本編とのギャップもあるのだろうが、奥さんの死体に包丁を刺すなんて、いくらフィクションとはいっても、やり過ぎだ。 「…………」 『噂』では、読み終わっていつ『くる』のかは明記されていなかった。  この本の出版はちょうど一年くらい前。つまり、そこまで極端な時間はかからないだろう。  そんな類推を立てたところで、悠季は側にあったカッターナイフを手に取った。
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