第一章 穴

2/6
前へ
/6ページ
次へ
紫陽花の花びらが地面を転がる頃、木々の根元には無数の穴が開き始めた。 直径2~3㎝程度だろうか。 頭上から、わしゃわしゃと蝉の声が降ってくる。 「和希、よく、聴きなさい。」 父さんの声だ。 「父さんしか、知らない事だ。誰にも話すんじゃないぞ。」 この雑木林の、丁度この辺りだっただろうか。 両手を合わせ、花を手向ける。 今日は― 7月3日、父さんの命日だ。早いもので、あれから もう、18年になる。 僕は唾を呑みこみ、コクりと頷く。勢いで、額に溜まっていた汗が一斉に顎へ流れる。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加