1人が本棚に入れています
本棚に追加
「その昔、ここ一帯は、ヘビの棲む町だった。」
五歳前後の息子の背丈に合わせ、父はしゃがみ込み、声を低くしてそう言った。
「ヘビ?」
「そう、あの細くてくねくねした生き物、先週の日曜日、見たろ、動物園で。覚えてるか?」
記憶を辿ってみる。
六角形の金網の檻が両サイドに9つ並んでいる。
右側には8本の脚で動く大きな蜘蛛がいる。
「ジョウログモ」。いつもお前がベランダの朝顔とかひまわりとかに、水あげてるだろ、そのとき使ってるジョウロにクモってついて、ジョウログモ。
父さんはそう言いながら次のコーナーへ行ってしまう。
そのすぐ右にあるのが、ヘビのいる檻だった。
「ハブ」と書かれた表札の中にいるのは、太く長い、豹柄を帯びた生き物だった。
「沖縄にしか、いないやつだ。父さんがまだ小さかった頃に聞いた話たが、当時、沖縄にはこのハブっていう猛毒をもつ厄介な生き物がうようよいたんだ。それを駆除しようと、外国からマングースっていうイタチみたいな小型の動物を森に放して、この島を、ハブのいない安全な場所にしようとした。」
最初のコメントを投稿しよう!