大人の事情 その2

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「うん、だけど話しはそこで終わらない、自分に味方がいないと悟った先々代の王様が目を付けたのが先代の王様の一人娘レイシア姫だ、彼女は先代の王、つまり父親が亡くなってからはひっそりと田舎で暮らしていたんだけど、彼はそれに目を付けたんだ」 レイシア姫、聞いた事もない。けれどその人は俺の従姉妹に当たるはずだ。 「先代の王様はグノーに執着して道を誤りはしたけれど、王様としてはそこまで悪い王様ではなかった。と言うよりは先々代の王様の評判が悪すぎてね、何をやっても良いようにしか評価されなかったという感じかな。先々代の王様の地位を簒奪した事ですら、虐げられていた人達にとってはとても嬉しい事だったしね。だから先々代の王様はそんな彼の密かな人気を利用してやろうとそう思ったんだよ。先々代の王様は彼女に囁く『お前の父親を殺した人物とレオン王は繋がっている。お前の父親はレオンに殺されたんだ』ってね」 「それ、姫は信じたんですか?」俺がそう尋ねるとアジェさんは困った顔で頷いた。 「これは本当の所はちょっと違うんだけど、そんな事を彼女は知らないし、実際父親は死に、その後釜で王座に座ったのはレオンさんだったんだから、彼女はその言葉をまるっとそのまま信じ込んだ。そして、そんな時に生まれたのがツキノ君、君だったんだよ」 メリア王家というのは俺が思っているよりもずっと人間関係が入り組んでいるようで、俺はアジェさんの語る人物を一人一人反芻するように頭に刻んでいく。 「メリア王の子として生まれた君の性別はどちらとも判別しがたくて、レオンさんとルネちゃんは君が大きくなって自分で性別を決められるように、公には君を男女の双子として公表した。実際子供は一人しかいないんだけど、そこは内密に、身内だけに知らせる形でそうしたんだけど、そんな時に事件が起こった。幼い君と乳母が襲われ攫われそうになったんだ、その事件自体では結局何も起こらなかったし、犯人もすぐに捕まったんだけど、君の両親はこんな事がもしまた起こるようだと、君の秘密が公に晒されるんじゃないかってそう思ったんだよ」 「それで俺は…」 「そう、それでツキノ君はファルスに送られたんだよ。明文上は病気療養、だけどそれは違うってもう分かるよね?」
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