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鳥たちのシゴト
連続二日の大失敗に見舞われたワタシは、よく眠れなかった。
でも、翌朝は寝坊するわけにはいかなかった。
鳥たちが歌っていたからだ。
その清らかな音色には、何とも言えぬ癒しのパワーが潜む。
悲しみが消え去り、不快な思いもすべて忘れられた。
それから時間がどのくらい過ぎたか知らないが、
歌声が断った時には、自分も我に返った。
何もできないワタシが再度、ここに立つ。
鳥たちは自分の影で翳されたワタシの存在に意識し、声をかけた。
「やあ、久しぶりだな。元気かい?」
ワタシはいまだにひそめていたが、
その潤しい音波が耳に入った瞬間、音楽で返事したかった。
鳥たちは合唱団を作りたかったが、メンバーがなかなか集まらなくて困っていた。
≪空より愛をこめて≫という歌を練習している最中で、
もしメンバーがそろったら秋に合唱コンクールをやる予定であった。
照れやなワタシであるが、歌うことなら特に難事ではなかった。
歌いたいという意欲がましてきたワタシを見て、
「じゃあ、ソプラノ、アルト、テノール、バスのどれにするかい?」といち早く尋ねた。
ワタシはどっちかといえば声高であるが、鳥の群れの中ではどうもそっちにはいかない。
仕方なく、鳥の世界では一番目立たないバスを歌うよりほかなかった。
鳥たちは普段、よく木の上でおけいこしていた。
でもありがたいことに、木に登れないワタシのためによく地表に下って練習した。
月日がたつに連れて、冴えない音声が一段と進化し、立派な音楽へと変わった。
もうすぐコンクリートに出られ、この花園が盛り上がることを夢見るばかりだった。
そんなある日、夏が終わりかかるころ、
隣から一匹の凶悪な犬がわけもなくけいこ中の私たちに襲いかかってきた。
この曲では主役のソプラノがやられた。
合唱コンクールの夢も余儀なく砕いた。
あの強大な反対勢力に立ち向かうことなく、ただひたすら逃げることしかできなかったワタシは真っ黒な罪悪感に覆われた。
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