0人が本棚に入れています
本棚に追加
最終章:何もできなかった最強なワタシ
ワタシはこのシゴトが大好きで大好きでたまらなかった。
そして、とうとう冬がやってきた。
ハナは憂い深くしおれて、ドレスをピカピカにする余裕はなかった。
寒風に倒されないで立つことだけで手いっぱいだった。
日ごとに元気を失うハナをみて、ワタシはたとえどんなに気力があっても、
悲しまずにはいられなかった。
日夜苦楽を共にした仲間が少しずつ死んでゆくという目の前の事実が、今まで経験してきたどんな苦痛よりも耐え難いものであった。
そして、「あの可愛いハナを守れるなら、いかなる方法でも構わない」と誓う自分が、
かつてのどの時点からみても逞しかった。
とけるような日差しの下で鉛を背負いながら木をよじ登ることでもいい、
ずたずたに切り裂かれた網をひと針ずつ縫い合わせることでもいい、
あるいは巨大な悪犬に噛まれてもいい、
せめてハナを生かしたい!
真冬の朝であった。
吹雪に当たらないようにずっとローブの中で必死に守り続けられてきたハナが
突然、微笑みながら照れくさそうに、「ありがとう」と最後の言葉を残した。
その間ずっと勇者らしく耐え抜けてきた自分が、
一瞬のうちに幼児にも戻ったかのように空に向かってわめき雪で羽毛布団のようなになった地面に這いつくばった。
ワタシはハナにもなれなかった。
仲間を守ることができないのは、ハナとはいえないのだ。
こうして、立ち上がることなく、一冬が過ぎた。
ワタシはそれきり、何もやろうとしなかった。
でもこれでいい。
春が来て、花園はいつものように戻った。
運搬係のアリは相変わらずあちこちへと荷物を届く。
クモのクイーンは新しいネックレスを編んでいた。
新しいメンバーを見つけた鳥たちは歌のおけいこに夢中で、
ハナのつぼみはビロードドレスのツヤ出しに没頭していた。
みんな一心不乱に自分の天職にわれを忘れていた。
でも何もできなくても可愛い自分こそ、最強だ!
最初のコメントを投稿しよう!