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「君が幸せになっているようにと思っていたけど、普通に暮らしていてよかった。ここへ戻ってきたのは、君の迷惑にならにように、もう来ないと言おうと思って来たんだ」
「でもね、あの仕事を離れると、また寂しいこともあるのよ。だから時々寄って下さい」
「もし迷惑でないのなら寄らせてもらうよ」
話が途切れると、また愛し合って、疲れると抱き合って眠った。離れ離れの恋人が久しぶりに会ったように身体と心が満たされていった。
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朝、目が覚めると、凛はもう起きて朝食を作っていた。
「おはよう。もう、起きたの?」
「いつもなら午前中は寝ているけど、今日は特別」
「昨日の余韻を楽しみたかったのに」
「朝食の準備ができましたから、食べていって下さい」
凜は何を思ったのが、早起きして朝食を作ってくれた。恋人のまねごとをしたかったのかもしれない。僕に特別の好意を示してくれた。
簡単な和食の朝食だったけど、とてもおいしかった。でも別れ際に僕は聞いてしまった。
「お礼をしてもいいのかな?」
「しなくてもいいわ。でも気の済むようにしてくれていいのよ」
「じゃ、気持ちだけ」
そう言って、2番目の店の料金を手に握って手渡した。彼女はすこし悲しそうな眼差しを見せた。それを見て好意を踏みにじってしまったと思った。
「ありがたくいただくわ、店の経営が楽ではないから」
「これまでと同じにしてしまって、気分を害したらごめん。悪気はないんだ。どうしても甘えられなくて」
「また、気が向いたら寄って下さい」
「ああ、ありがとう」
店の前まで送ってくれた。久しぶりの逢瀬で身も心も満たされた。凛はやはりいい女だ。
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