202人が本棚に入れています
本棚に追加
/109ページ
地味子ちゃんが僕に相談したいことがあると内線電話をかけてきた。入社2年目の彼女の本名は米山由紀。入社後半年の研修を終えて隣の研究開発部に配属されていた。
僕は磯村仁、企画開発部の課長代理、入社12年目。入社後5年間は研究所で新製品の研究開発に携わっていたが、7年前に本社へ異動してきた。今は新製品の企画開発のプロジェクトマネージャーをしている。
地味子ちゃんが研究開発部に配属になった時にプロジェクトの関係で挨拶に来たが、言葉のなまりから同郷で大学も同じ理系の学部の10年後輩だったことが分かった。
それからは、仕事のことや身の回りのことなどを何かと相談されるようになった。こちらはこれでも独身男性だけど10歳以上も歳が離れていると、もうただのオッサンと認識されているようで少し寂しい気もしている。
「先輩、ちょっと大事な相談があるんですけど、聞いてくれますか?」
「いいけど、今日は仕事が早く終わりそうだから、6時にビルの出口で待ち合わせるかい?」
地味子ちゃんはビルの出口から少し離れたところで待っていた。地味子ちゃんと言うのは僕が勝手につけたニックネームで、セクハラになりかねないから、直接、彼女を「地味子ちゃん」と呼んだことは一度もない。彼女は配属された時からすごく地味な娘だった。外で立っていても地味で全く目立たない。
今でもリクルートスタイルをとおしているし、色気より食い気なのか、顔は真ん丸でコロコロに太っている。それに大きめの黒縁のメガネ、太めの眉毛、化粧もほとんどしていないみたいだ。ヘアサロンには時々は行っているみたいだけど、いつも髪を後ろに束ねているだけだ。
趣味や習い事は特にないみたいで、今は仕事に一生懸命のようだ。いつもニコニコしていて、性格もいいし、仕事はまじめに的確にこなしているみたいで、リーダーの受けもいいと聞いている。
ただ、一見して地味で色気がなくて、デートに誘ったり一緒に歩いたりしたくなるようなタイプではない。だからこちらも気楽に付き合えて相談にものってやれる。先輩、先輩と言ってくるので、面倒も見てやっている。
最初のコメントを投稿しよう!