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僕には妹はいないが、まあ、不細工な妹を持った兄のような心境だ。不細工な妹は可愛いというか、もう義務感で面倒を見てやっている。
「知っているスナックがあるから、そこで軽く食べて飲みながら話を聞こうか?」
地味子ちゃんは先輩の僕をすっかり信用しているので後ろから黙ってついて来る。ビルのある虎ノ門から地下鉄で表参道へ向かう。表参道の大通りから少し入った行きつけのスナック『凛』へ入る。まだ6時半位だから客が誰もいない。
「ママ、紹介するよ、同じ職場の後輩の米山さんだ」
「初めまして、ママの寺尾てらお 凛りんです」
名刺を差し出す。ママは地味子ちゃんを見て微笑んでいる。二人の間には疑いもなく何にもないと分かると見える。
「素敵なママですね。私はこんな女性になりたいんですけど」
「ええ? 相談って何? まあ、何か食べよう。軽食のメニューだけど何がいい? 奢るよ」
「じゃあ、オムライスをお願いします」
「じゃあ、ママ、オムライスを2つ、それから二人に水割りを作って下さい」
すぐに水割りを作ってくれた。それから、しばらくしてオムライスが出てきた。一口、口に入れるととてもおいしい。
ここでオムライスは初めて食べたが、ママの料理はどれも味付けが良くておいしい。地味子ちゃんもおいしいと見えて黙って食べている。これでようやくお腹が落ち着いて来た。
「ところで相談って何?」
「思い切って言います。私、先輩の隣のグループのカッコいい新庄さんが好きになってしまいました」
「仕事一筋ではなかったのか?」
「そうなんですが、このごろは仕事にも慣れてきて、週末にショッピングに出かけると、カップルの姿が目について」
「男性に目が向くようになった?」
「はい、少し寂しいこともあって、時々廊下で会うので素敵な人だなと思うようになって。こんな気持ちは初めてなので、どうしていいか分からなくて?」
「そういうことは、同性の先輩か同僚に相談するものじゃないの?」
「周りに相談できる女性の先輩も友達もいなくて」
「直接、新庄君に言えばいいじゃないか」
「それができるくらいなら先輩に相談なんかしません」
「そりゃそうだな」
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