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奪っていく?
「あー、やっぱりドア壊れてる。つーか、ちゃんと閉めろよな」
今度はブツブツ聞こえてくる声に動けない。
頭の中、真っ白。
いや。いやだ。
ドアが閉まろうと動く。
だめ。今しかない。
「ま、待って」
「え?しほりネエ?」
佑樹が顔を出す前に私がドアの内側に滑り込んだ。
臆病者の私には今しかチャンスがない。
「なに?どうしたのさ、しほりネエ」
「今の人」
「?柳川先輩がどうかした?」
不審げな佑樹の眼差しから逃げるように、周りを見回す。
……放送室、初めて入った。
操作パネル、突き出てるマイク。収録機材、仕切りのはめ込みガラス、その向こうのスタジオ……佑樹が求める世界。
「しほり?辞書なら家に持って行くつもりで」
……そうだった。
感動してる場合じゃなかった。
頑張れ、しほり。
今ここには佑樹しかいない。今言わなきゃこの先二度と言えない気がする。
鞄を肩に掛けたまま、背中で不審げな声を出すやつを振り返る。
真っ正面に佑樹の姿を捉え、深呼吸。
「好きなの」
………。
やつは動かない。
眉一つ。
途端に襲いかかってくる絶望感。
……それでもいい。
総てをぶち壊して新たに積み上げても。
少しでも早く。
それは私自身が今まで佑樹に言ってきた言葉じゃない?
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