つつ

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その度に私はぶっきらぼうな態度で否定を繰り返している。 ことある毎に私の教室に物を借りに来るのは、私と彼が同じ中学の先輩後輩だからって。 勿論やつにもそう言わせてる。   でも私はヤツに言わない。 辞書持った?も、地理の資料集忘れてない?も、のど飴ポケットに入ってる?も。 絶対に言わない。 絶対に言わない。 じゃないと……。 「なるほど。臆病者ね。うん、文脈通った!」 ナルがぽんと手を打つ。 臆病者。 まさに私だ。 私が唯一優越感に浸れる瞬間。 私のところに来るやつの目的が忘れ物でも。 佑樹が自分しか見ていないと感じる時間を手放すなんて出来ない。
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