五十八、血汐のうたかた - la Chaleur Tentante-

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五十八、血汐のうたかた - la Chaleur Tentante-

 サゲンが目を覚ましたのは、翌日の明け方のことだった。指に温かく柔らかいものが触れている。それをそっと握ると、腰の横で何かが動いた。サゲンは握っていた指を離し、腰の横にあったもの――アルテミシアの頭に手のひらを乗せた。  それまでベッド脇に頭を預けて寝息を立てていたアルテミシアが弾けるように身体を起こし、青白い顔をサゲンに向けた。目が合うと、ゆっくりと花が咲くように笑みが顔に広がっていく。サゲンは生きていて良かったと強く思った。  アルテミシアがベッドに仰臥するサゲンに飛びついた。数日ぶりに目覚めたばかりの身体には大きな衝撃だったが、これほど幸せな衝撃なら何度受けたっていい。サゲンは悲鳴を上げる左肩を無視してアルテミシアをしっかりと抱きしめた。  アルテミシアの背は震えていた。肩が温かいもので濡れている。 「俺も愛している」  声がひどく掠れたが、アルテミシアにははっきりと伝わったはずだ。 「…まだ何も言ってないけど」  鼻をすすりながらアルテミシアがいつもの調子で言い返した。 「言っているさ。全身で」  アルテミシアが顔を上げてサゲンを見た。鼻の頭が真っ赤に染まり、目蓋は既に腫れている。子供のような泣き方だ。アルテミシアは手のひらで涙を拭った。サゲンはちょっとおかしくなったが、その仕草も愛おしくて堪らなかった。 「愛してるよ、お寝坊さん」  自分でもおかしくなったらしい。アルテミシアはふふ、と照れたように笑った。サゲンは右手でアルテミシアの頬を撫で、顔をそっと引き寄せると、キスをした。唇から生命が宿るように熱が伝わり、久しぶりに生きている実感がした。  唇を離した後で互いの肌を湿らせる吐息でさえ、熱い。 「もう身体は大丈夫なのか。顔色がよくない」 「あなたほどじゃないから、大丈夫」 「君が無事でよかった」  サゲンはもう一度顔の向きを変えて口付けた。 「眠っている間、君の夢ばかり見ていた」  ドキ、とアルテミシアの心臓が跳ねた。嬉しいからと言う理由だけではない。自分の見た悪夢を思い起こしたからだ。夢でロクサナが発した言葉が、呪詛のようにアルテミシアの心を蝕んでいた。  アルテミシアは悪い考えを振り払うようにちょんちょんとサゲンの鼻と頬にキスをして、腰を這い始めたサゲンの左手をそっとベッドへ戻した。 「…バロー先生を呼んでくる」  サゲンの部屋を出た後、堤防が決壊したように涙が溢れた。サゲンが目を覚ました安堵と、ロクサナへのシンパシーと、自分への嫌悪感で頭がぐちゃぐちゃだった。サゲンへの気持ちは変わらない。むしろ、サゲンが目を覚ましたのを見て前より大きくなっていることに気付いた。これほど深く情愛を捧げられるのは、後にも先にもただ一人だ。  それなのに、前と同じではいられない気がした。自由を得るためにカノーナスになることを選んだロクサナと同じく冷酷で非情な自分は、いつか毒となってサゲンを苦しめるかもしれない。  サゲンは風変わりなバロー医師の診察を受けた後、カラヴェラ船に同乗したイグリを部屋へ呼んだ。眠っていた数日分の報告を受けるためだ。イグリが部屋に入った時には、サゲンはベッドから上体を起こし、やけに濃い緑色の茶を険しい顔で飲んでいた。サゲンはイグリの姿を見ると、いつもの調子で短く命じた。 「報告」 「えっ…」  と躊躇するイグリに、サゲンは厳しい視線を向けた。 「でも、上官。痛みは…」 「耳は異常ない。何のために呼んだと思っている」 「あー…、抱き合うため?」  イグリは上官の氷のような視線にも怯まず、果敢にもサゲンにガバと抱きついた。 「よかったです、本当」 「…世話をかけた。お前のお陰で助かった、イグリ・ソノ。礼を言う」  イグリの喉が鳴った。 「泣くな」 「泣いてませんよ」  と言いながら、イグリは鼻をスンスンと鳴らした。  イグリの報告内容はこうだ。  カノーナス――正確にはロクサナと‘アリスモス・トリア’と呼ばれていた男が海に散り、サゲンとアルテミシアが戦線を離脱した後は、ゴランとバスケ元帥が指揮を執った。  連合軍は当初の予定通り総攻撃を仕掛けた。財産が海の底に沈んだ上「親方」が死んだと知って戦意を失い投降した者も多い。そうした者たちは情報提供と引き換えにある程度の減刑を保証されるという。 「ゴランはうまくやったようだ」  ゴランは指揮権のあるイノイル軍の副官として主導するのではなく、あくまで補佐的な役割に徹して逐一バスケの意見を仰いだ。世渡り上手の彼らしい。が、決してイノイルの指揮権を譲ることはしなかった。  ともあれ、掃討作戦は完了した。味方の死者は両軍合わせて数十名、負傷者は五百余名とのことだった。海賊側は、計り知れない。 「捕縛された海賊が新たに関係者の名前を言えば、捕縛する者が増えます」 「救える命も増える」  サゲンが言うと、イグリは誇らしげに胸を張った。 「家に帰れる人も、でしょう」 「そうだ」 「それから、リストに名前のあった連中ですが」  と、以前海賊の首領が自白した取り引き相手のことに触れた。同盟国や協力関係にある国の間では既に彼らの名前が極秘の内に共有されており、それぞれの警察隊や軍が予てより対象者に監視をつけて裏を取り、海賊の掃討作戦と合わせて彼らを一斉に捕縛することになっていた。  イグリが続けた。 「イノイルとエマンシュナ国内では予定通り作戦が終了したとの報告が、昨夜から今朝にかけて入ってきています。数日のうちに他の地域からも正式に報告があると思いますが、何しろ社会的地位のある大物ばかりです。断罪までが大変そうですよ」  サゲンは顎を引いた。 「うちでできるだけのことはした。あとはそれぞれの司法を信頼するしかない」  少なくともイノイルとエマンシュナにおいて人身売買に関わり君主の顔に泥を塗った者たちが寛大な処置を受けることは、まずないだろう。  特にイサ・アンナ女王は自分の王国で捕縛された関係者を厳しく処断するに違いない。今回の掃討作戦の先導をしたという立場もあるから、この作戦に関わった国々の盟主として厳格な態度を示すはずだ。自然、他国もイサ・アンナ女王に倣ってこの流れに乗ることになると考えていい。  全ての報告を終え、辞去しようとしたイグリをサゲンが引き留めた。 「アルテミシアに会ったか」 「え?ええ」 「様子に変わったところはあったか」 「え、特には…」  イグリは首を傾げた。サゲンがイグリにアルテミシアのことを尋ねるなど、今までの関係性から考えれば異例のことだ。 「なら、いい」  サゲンは一人になった後、腕組みをして思案した。アルテミシアの様子は、いつも通りだ。が、何かが違う気がしてならない。昏睡から目覚めたばかりで頭がはっきりしなかったからとも、アルテミシア本人がまだいつもの元気を取り戻していないからとも言えるが、そういう違和感とは少し違っている気がする。イグリにこんなことを尋ねたのは、自分以外にアルテミシアの様子に注視している者はイグリ・ソノであると認識しているからだ。癪に触るが、事実だ。  その後、続々とその他の地域からの報告に加え、事態収集に当たっているゴランからも詳報が届き始めた。更にバスケ元帥からも今後のことについて話し合うため病室で会見したい旨の申し入れがあり、サゲンは身体をベッドに寝かせている間も無いほど多忙になった。会見は、サゲンが病室として間借りしている屋敷の客間で行われ、サゲン自身も室内用のシャツと簡素なズボンのままバスケ元帥に会った。  次にアルテミシアに会うことが適ったのは、翌夕のことだ。 「夕飯を、一緒に食べようと思って」  と、ゆったりした生成りのナイトドレスに身を包んだアルテミシアが大きな盆に二人分の食事を載せて運んできた。サゲンは手に持っている報告書を投げ捨ててベッドから飛び降り彼女を抱きしめたい衝動を抑え、形ばかりのしかめっ面を作って見せた。 「君もまだ安静にしろと言われているだろう。そんなことはしなくていい」 「あなたこそ、食事の時間くらいしか休んでないじゃない。わたしより怪我がひどいのに」 「俺は責任者だ。君は違う」  アルテミシアはむうっと頬を膨らませた。 「そう。わたしは自由だから、やりたいようにやる」  反抗的な態度を取った割に食事を下げる様子もなく、窓際に置かれた円形のティーテーブルに盆から料理の載った皿を次々に移していった。作業を終えると、盆を抱えたままくるりとサゲンの方を振り返り、伏し目がちの、ちょっと沈んだ表情でぽつりと呟いた。  「…その、ただ、会いたかったんだけど…、邪魔だった?」 「まさか」  心許なげな瞳で可愛いことを言われたのでは、負けるしかない。 「よかった」  アルテミシアは眉を開いてベッドへ近付き、サゲンに手を差し出した。自分より重傷のサゲンが立ち上がるのを支えようと思ってのことだ。ところが、サゲンはアルテミシアの手を掴むと同時に自分の方へ強く引いた。アルテミシアの身体はサゲンの上に投げ出され、その右腕に腰を掴まれてしまった。 「…食事が冷めちゃうよ」  と言いながら、アルテミシアは抵抗しなかった。それどころか、頬をサゲンの胸にすり寄せ、左肩の負担にならないよう右側に体重を預けて、痛みのない場所を探るような慎重さでそろそろと背に腕を伸ばしてきた。  この仕草と布越しの温度が、サゲンの身体を一気に熱くした。 「食事よりこっちの方がいい」  サゲンが頬を引き寄せるのを待たず、アルテミシアは唇をサゲンの唇に押し付けた。怪我をしているにも関わらずいつも通りの力強さでサゲンの左手がアルテミシアの後頭部を押さえ、隙間もないほど重なった唇から舌が侵入して来て内部を余す所なく侵した。  サゲンの手がもどかしそうにアルテミシアの胸を隠しているドレスの紐を解き、編み上げられている胸元の紐を千切れそうなほど強く引っ張って緩めた。  時折肌に触れる指がひどくくすぐったく感じられて、アルテミシアは喉の奥で微かに呻いた。 「あ…、だめだよ。怪我が…」 「君は治るまで待てるのか?」  そう言って含み笑いをしたサゲンの舌先が焦らすように喉を伝い、手がざらざらした麻の衣越しに胸を這った。 「んんっ、だ、だめ」 「だめ?本当に?」  胸の先端をサゲンの指が掠める度に、身体中を細く柔らかい無数の針で刺されるような感覚が広がる。アルテミシアの意識は再びサゲンの口付けに夢中になった。 「ここを――」  と、サゲンの指がナイトドレスの裾から脚の間へ滑り、下着の中へ忍び込み、中心へと入っていった。 「んん!」 「キスだけでこんなにして、まだだめか?」  サゲンが誘惑するような声色でアルテミシアの耳をくすぐった。サゲンの指が埋まった場所からは、既に湿り気を帯びた淫らな音が聞こえてくる。ぞくぞくと快楽の波がせり上がってくる。 「だっ…」  だめ、とは最早言えなかった。更なる刺激を欲して、無意識のうちに腰がゆるゆると動いている。アルテミシアはせめてもの反抗に俯いてサゲンの肩に額を押しつけ、唇を噛んで唸ったが、それもまたサゲンの情欲に火を点ける以外の効果はない。 「まだ熱があるんじゃないのか」  とサゲンが尋ねたほど、アルテミシアの身体は熱かった。 「あなたこそ…」  アルテミシアが顔を上げて言った。吐く息は熱く、瞳が熱に浮かされたように潤んでいる。アルテミシアの柔らかい臀部にサゲン自身の硬くなった一部が触れた。サゲンは焦れたようにアルテミシアの首筋に噛み付き、甘い悲鳴を聞きながら花のような香りを吸い込んで彼女に埋めた指を上下に動かした。 「ひゃっ、ああ…!」  アルテミシアは身体の中心から湧き上がる快感に耐えきれず、サゲンの右肩と左の首筋に掴まったまま、高い声で叫んで達した。  サゲンは滴るほどに濡れたそこから指を抜き、ドレスを裾から捲り上げて頭から抜き去り、下着の腰紐を解いてアルテミシアを瞬く間に裸にした。ランプの明かりが、火照った身体の至る所に付いた擦り傷や痣を浮かび上がらせた。  サゲンが仰臥したまま呼吸を荒く繰り返すその肢体を眺めていると、アルテミシアが一瞬眉を歪めて複雑な表情を見せ、上体を折り重ねて唇を重ねて来た。彼女が見せた表情の意味を考えるいとまも無く、サゲンは突然襲って来た快感に呻いた。  アルテミシアの柔らかい手がサゲンの立ち上がった部分を布越しに包み、上下に動いている。サゲンはアルテミシアの指が先端を掠める度に腰が浮きそうになるのを耐えなければならず、犬のように浅い呼吸を繰り返した。 (ふしぎ)  アルテミシアはズボンの下で塊が更に硬度を増したのを感じて新鮮な驚きを持った。何度も自分の中に受け入れたのに、これがどういう風になっているのか、未だによく分からない。  サゲンの首に吸い付き、そろりと前に手を這わせて隠しボタンを外し、脚からズボンを抜き取った。下着の下に隠れていたものは、サゲンの身体よりももっと熱かった。  アルテミシアが素肌をそっと手のひらに包むと、サゲンは食いしばった歯の間から呻き、肌に浮いた脚の筋肉をビクリと跳ねさせた。  サゲンは腰の方へ手を伸ばし、アルテミシアの髪に触れた。アルテミシアは手のひらにサゲンの一部を包んで上下に動かしながら、サゲンの手に頬を擦り寄せてくる。 (くそ)  彼女の初めての衝動を全て受け入れ、好きにさせようと思っていたが、難しくなってきた。  アルテミシアが反応を探るように顔を覗き込んでくる。頬が紅潮し、無垢にも見えるハシバミ色の瞳の奥には、欲望の炎が燃えている。  とても理性など保てない。 「アルテミシア…」  サゲンはアルテミシアの手を掴んで引き寄せ、彼女の裸体を胸の上に覆い被らせて唇を塞いだ。サゲンは獣が餌を喰らい尽くすような口付けをしながらその身体の下に組み敷こうとしたが、アルテミシアは頬を上気させ、 「まだだめ」  と言ってするりとサゲンの右腕から抜け出すと、するするとサゲンのシャツの前を全て開いて傷だらけの精悍な胸を露わにし、血の滲んだ包帯を避けて首から鎖骨、鎖骨から胸、胸から鳩尾へと啄むようなキスを繰り返して更に下っていった。  幾度となく身体を重ねてきたのに、頬と舌に触れる硬い筋肉と熱い肌の感触がこれほど自分の欲望を煽るものだと今まで知らずにいたことが、むしろ不思議に思えた。アルテミシアは割れた腹筋の下の臍をぐるりと舐め、その下のざらざらした茂みを通って、硬く立ち上がった熱の塊を口に含んだ。 「――ッ…!く、あ」  サゲンが耐えかねて声を上げた。アルテミシアが初めて聞く声だ。悦びがぞくぞくと肌を駆け巡って心臓を締め付けた。奇妙な感覚だった。自分の口の中で硬化した熱が塩気を帯びて脈打ち、その先を促すように張り詰めている。これにどう触れたらサゲンが悦ぶのか、もっと知りたい。 (まずい)  と、サゲンは激しい快楽の中で思った。すぐにでも果ててしまいそうだ。アルテミシアが慣れない動きで根から先へと舌を這わせてくる。まるで未知のものを調べるような丹念さだった。いや、彼女にしてみれば、本当に探索のつもりなのかもしれない。時折上目遣いでこちらの様子を窺っては、反応のよい場所を繰り返し攻めてくる。ところが、今までにないほど大胆な行為をしているにも関わらず、視線が合うとアルテミシアはひどく恥ずかしそうに目を逸らすのだ。 (ああ、くそ。可愛い…)  サゲンはアルテミシアの髪に触れ、頭を撫で、柔らかい舌が創り出す快楽に悶えていたが、彼女のとろりと熱情に潤んだ視線を受けた途端にとうとう耐えきれなくなった。サゲンは上体を起こし、顎を掴んでアルテミシアの唇をそこから引き離すと、自分の上に跨がらせて唇を奪った。柔らかく温かい彼女の肌が、サゲンの身体に新たな熱を生み出していく。  この上なく興奮しているせいで乱暴な動作になったが、アルテミシアも同じくらい情熱的に肢体を絡ませ、噛み付くようなキスをしてきた。彼女の中の動物的な衝動を解放しているようだった。  サゲンがアルテミシアの乳房を手で覆い先端を弄ぶと、アルテミシアは甘い呻きを漏らしながら脚の間に触れているサゲンの一部に自分の中心を擦り付けた。 「どうしたい」  サゲンが欲望に掠れた声で訊いた。アルテミシアの頬が真っ赤に染まる。 「君のものだ。好きにしていい」 「もう、中にほしい…」  ゾク、とサゲンの身体が歓喜に震えた。唇が吊り上がったのが自分でも分かる。 「じゃあ、君が迎え入れてくれ」  サゲンは耳まで赤く染まったアルテミシアの髪を撫で、首から胸へ啄むようなキスをし、腰を掴んで浮かせ、自分の上へ導いた。湿った音と共にアルテミシアがサゲンを迎え入れ、歓喜の吐息を漏らした。 「ああ…、アルテミシア」  溶けそうなほど熱い。サゲンは頭を枕に押し付けて気が遠くなるほどの快楽に身を委ねた。アルテミシアがゆっくりと腰を前後に揺り動かす度に彼女の最深部にサゲンの先が当たり、そこから生み出される甘美な刺激に耐えかねたようにアルテミシアがきつく結んだ唇の奥で悲鳴を上げる。  サゲンはこういう時にいつもするようにアルテミシアの下唇を親指で下に引いて口を開けさせ、呼吸を解放してやった。 「声を聞かせてくれ」 「んっ、あ、あなたも…」  アルテミシアはさらに奥へとサゲンを誘うように腰を落とし、動いた。恥ずかしくて死にそうだった。淫らで火が点きそうなほど熱いサゲンの視線を受け止めるのも、サゲンの上で自分の快い場所を探りながら腰を動かすのも、自然と上がってしまう女の声を自分の耳で聞くのも、堪らなく恥ずかしかった。それでも、やめられない。 「はっ、あ…」  興奮と快楽に掠れた男の声が聞こえる。これがアルテミシアの心臓と腹部を内側からぎゅうぎゅうと痛いほどに締め上げた。  サゲンが腰を浮かせてアルテミシアを強く突き上げた瞬間、アルテミシアは意識を絶頂に放り出されて悲鳴を上げ、びくびくと激しく内部を収縮させた。まだ中に収まっているサゲンの硬い熱を締め付け、その感触でさえ刺激になった。 「ん、あ、サゲン…」  アルテミシアは上擦った声で名前を呼び、サゲンの頬に触れた。サゲンもその手を握り返して身体を起こすと、アルテミシアが吐き出した熱い吐息さえ逃さないような激しさで唇を重ねた。互いの体調も考慮して今日は可能な限り大人しくしようと思っていたが、無理だ。  サゲンは右腕でアルテミシアの背を押さえて自分の方へ引き倒し、臀部を掴んで下から激しく突き上げた。 「あ――!」  アルテミシアが叫んだ。しがみついたサゲンの右肩に爪が食い込んだ。まだ絶頂を迎えたばかりでひどく過敏になっている場所をサゲンが何度も突き、更なる高みへと導いていく。 「ああっ、だめ。また…」 「はっ、…ッ、なんだ。また?」  サゲンの声も余裕をなくしていった。これほどの水分が一体どこから湧いてくるのかと不思議になるほどアルテミシアは濡れている。身体中に汗が浮き、ハシバミ色の瞳は涙が溢れそうなほどに潤んで、繋がった場所からは既にサゲンの腿が濡れるほど蜜が溢れている。 「いっ、…いく」  耳元でアルテミシアが熱に浮かされたように囁いた。サゲンの血が滾って一箇所に集中し、それがサゲンの律動を狂暴なほど激しくさせた。 「ああっ――!」  アルテミシアは悲鳴を上げて背を反らすと、全身を震わせてサゲンの胸へ倒れ込んだ。 「――くっ、ああ、俺も…」  サゲンが唸るように言ってアルテミシアの身体の奥を強く叩きつけ、急速に狭まったその場所へ促されるまま欲望を解き放った。これがすぐには終わらず、彼女の中で全てを出し切るまでしばらくかかった。その間、アルテミシアは苦悶するように緩く腰を震わせていた。 「…しまった」  サゲンが言うと、柔らかい胸を上下させて呼吸をしながら、アルテミシアが顔を上げた。瞳はうるうるとたっぷりの水分を含んで官能的に輝き、前戯のせいか激しいキスのせいか、花弁のように可憐な唇が腫れ、血色を増している。 「拭くものがない」  これを聞いて、アルテミシアが弾けるように笑い出した。が、サゲンが不適な笑みを浮かべた途端に唇の端をぴくりと歪ませた。中のものがまた硬くなっている。 「ちょっと、これ以上はもう…」 「だめだ。君が腹を動かして笑うから刺激されて、ほら」  サゲンが緩く奥を突いた。 「あ…、もうだめ…」 「責任を取れ」  サゲンはアルテミシアが抵抗する間も与えず、唇を塞いだ。
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