夏に舞い散る、白き羽

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 だがこの後、今より状況が悪くなってしまい、経験したことの無い冷夏(れいか)となるのである。 「かあちゃん、寒いよ。冬みたいだよ」  幼い娘が、部屋の片隅で体をさすりながら、母親に語る。 「そうね、こんな寒い夏は始めてだわ。このままでは作物の生長にも影響が出るね、心配だわ」 「ねぇ、このまま冬になったらもっと寒くなるのかな、そんなのいやだよ」 「そんなことはないよ、この寒さはいまだけよ、きっと」  幼い娘を気遣うように、女性は優しく頭をなでる。 「やっぱり駄目だ、稲の生長が止まっている。このままじゃ今年もろくに米がとれんぞ」  そこに外から戻ってきた、男性とその子供とおぼしき数人が入ってくる。 「外は冬みたいに寒いよ、母さん。山でなんとか鹿はとれたけど、米がとれないと食べ物がなくなちゃうよ」  長男であろうか、鹿を足下におくと、そうため息をつく。  ここは、美濃国石津群蒔田荘(みのこくいしづぐんまきだしょう)(現岐阜県大垣市上石津町)と呼ばれる地で、三方山に囲まれた地である。  とはいえ、夏にここまで寒いというのは過去に、いやこの先にも無いことであった。  そして、それがさらなる異常気象を、巻き起こすことになるのである。
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