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ー2足歩行で片手に時計を持ちながら、道を急ぐウサギなら、人の言葉を話したな。
瑠璃は驚きのあまり、あまり働かなくなった頭でぼんやりと考えた。
しかしながら、瑠璃の格好はエプロンドレスではなく、普通のシャツとスカート。またウサギの格好も着物と袴で、持っているのはお茶と団子。
残念ながらここは、可愛い英国の童話の世界ではないらしいと瑠璃は悟った。
「あれ、あんた、もしかして…」
ふと気がつくと、兎の顔が瑠璃の真下まで迫っていた。そして瑠璃の目をじっと覗き込む。
真っ赤な瞳は瑠璃を捕らえ、瑠璃は兎の目に移りこむ自分を見た。それはまるで血の渦の中にいるようだった。
「い、いやー!」
瑠璃は思わず叫んでしまった。そしてそのまま、突如叫びだした瑠璃にたじろぐ兎をしり目に、その場から逃げ出した。
ー何なの、ここは。
冗談みたいな光景が広がっているが、これは夢ではなく、現実だ。
瑠璃はやみくもに走りまくって、帰り道を探し始めた。しかしどんなに走っても、川と蔵の間の大通り以外に道が見当たらない。
そこで慌てて瑠璃は先ほどまでいた、兎がいる団子屋まで戻った。
ー兎に見つかりませんように。
少しおびえながら、瑠璃は古い柳の陰からそちらを覗いた。
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