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唐突に立ち止まった千草たちを訝しげに思って、女を見ていた瑠璃もそれに気がついていた。
瑠璃は自分の背中に冷たい汗が流れるのを感じた。何だか嫌な予感がした。
そして女の左手を見て、その予感は的中してしまったことを知った。
「狐さん!!」
瑠璃は悲鳴のような声で叫んだ。
そうである。女の左手がつかんでいたのは、先ほど瑠璃に道案内をした狐であった。
狐は本来すばしっこい生き物である。真面目に掃除に集中していればこんな風に襲われることはなかっただろう。しかし瑠璃に向けて大声で呼び掛けるなど、すっかり気を抜いていたが為に、このような事態に至ったのである。
「狐さんを離して!」
瑠璃はまた叫んだ。
狐は瑠璃の声に反応して、うっすら目を開けたが、腕の傷が痛むのか顔をしかめた後、またぐったりとした。
女はぎょろりとした眼をこちらに輝かせて、左腕で狐を抱き寄せた。そして反対の手の尖った指先をそっと狐ののど笛に当てた。
脅しだ。こちらに近づけば、この狐の喉をかっ裂くぞ、そういう意味合いであることは、その場にいる誰もがわかった。
その場の空気はさらに凍てついた。
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