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女はその状態のまま、ジリジリと後ろへ下がった。
そして川沿いから蔵の方へゆっくりと斜めに移動していった。
「まずいな…」
また千草が呟いた。何を今さらまずいと言うのかと思い、千草の背中をじっと見つめると、千草は仕方がなさそうに説明を始めた。
「あいつ、瑠璃にはどう見えてる?」
「なんか、怖い。人でも死者でもないみたい」
「でも、死者だよ、それは間違いない」
淡々と千草は言った。そして他に何か気づいたことはないかと瑠璃を促した。
「…よくわからないんだけど、黒くて禍禍しい靄に覆われてる」
「それだよ。早いうちに手を打たないとこの世に対する恨みや未練が怨念となって、その人自身を飲み込んでしまう。そして酷い場合は『邪神付き』になって、あんな風に他者を巻き込んで増大しながら、現世に戻ろうとする」
「あの靄が『邪神付き』の証だよ」
千草に続いて、空は吐き捨てるように言った。
そんな話をしているうちに、女との距離はぐんぐんと開いてしまった。
「このままだと抜け穴つくって、逃げるな」
千草は舌打ちをしながら言った。
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