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現に女は左腕で狐を抱きかかえながらも、器用に右手を蔵と蔵の間の狭い隙間に入、ぶつぶつと何かを唱えていた。その呪文のせいか蔵は揺れだし、中でくつろいでいた死者や働いていた犬や牛の神使たちが何事かと慌てて外に飛び出した。
辺りが騒然としてきた中、ふと女が視線を瑠璃たちから外した。隙間がどれくらい広がったかを見るためである。
そしてその隙をついて、空はすぐ横にあった柳に登りだした。船着き場の柳ほどではなかったが、この木も太く立派だった。
とは言いつつも、この木はあくまでも柳である。決して木登りに向いた木とは言えないであろう。
「そら兄、危ないよ!」
瑠璃は女にばれぬよう、小声ながらも必死で空を説得しようとした。
「瑠璃、大丈夫」
焦る瑠璃を千草がなだめた。
「僕らは死んで肉体を持っていないから、重さがないんだ。だからどんな木だって多少しなることはあっても、折れはしない」
千草がそんな説明をしている最中、空はあっという間に登り切り、葉の生い茂る中に身を隠した。
そしてそのまま空は黙って、弓をつがえる「格好」をした。そう、あくまでも「格好」である。現に空は弓も矢も持っておらず、空でそれを行った。
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