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だが瑠璃の目には、本当にそこに弓矢があるように感じた。
ーそら兄、何をする気なの…?
瑠璃は唐突な空の行動に驚き、また女がこちらの異変に気づきはしないか肝を冷やしながら、じっと空を見つめた。
すると空は弦を引き始めた。瑠璃は聞こえるはずのない、弦の張る音、弓のしなる音が聞こえた気がした。
空がゆっくりと弦を引くにつれて、空気の緊張も高まっていく。
次の刹那、瑠璃は矢が弓から離れるのを聞いた。実際には弓も矢も存在しないのだから聞こえるはずはないのだが、それでも瑠璃は音を聞いたと思った。
矢は確実に女の方へ向かっていた。
だが瑠璃は瞬時に、空が的を外した、つまりは女に命中しなかったことを悟った。
というのも、女が狐を投げ捨てて、ものすごい勢いで瑠璃たちの方へやって来たのだ。長い黒髪を振り乱し、四つん這いで向かってくる姿はそんじょそこらのホラー映画に負けないものがあった。
「瑠璃、逃げろ」
肝心の矢を外した空が柳の上から怒鳴った。そして瑠璃の隣にいた千草は瑠璃の手を強く後ろに引いて突き飛ばした。
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