0人が本棚に入れています
本棚に追加
僕たちは、寒さを、寒さだけを楽しまなければならない。
ここ30年で何の因果関係か、世界平均気温は摂氏において、5度下がった。当時の人々は、次々と凍死して、人口は実に世界で、2億人減ったという。
冬はもう凍てつくような寒さ。あたりは雪景色なんてざらだし、みんな厚着で昔の映画を見てみると、うらやましくなる。無いものねだりが得意の現人類。探求はやめ、昔の道具の使い方も忘れ、仕組みも忘れ、退化していくのみの私たちはなぜ、発展をあきらめてしまったのだろう。
答えは、そう、寒いからだ。生物は温暖な気候を好む。そりゃそうだ。あったかいほうがエネルギーが湧き出るからな。やる気が起きないわけだ。そう、つまり私たちは、昔心配していた地球温暖化を推し進めるべきなのである。
※*※*※
「ごはんよー」
「うん」
おっと忘れていた。紹介する。これが僕の母親、館林ヘレンだ。外国風の名前が流行ってた第二次ドキュンネームブームに生まれてしまった、可哀想な人物である。
「何話しているのよ」
おっとまずい。僕の悪い癖、独り言が出てしまった。
「なんだって? もう一回行ってごらんなさい。今なら怒らないから」
何かの勘違いだっ、ってもう怒ってるじゃん。
「なんだって?」
「えっとだから、おっとまずい、おれの悪い癖、独り言が出てしまった。っていたんだよ」
「どう聞いても、おっとまずい、お前の顔が悪い、くっ、独り言を言ってしまったぜ。にしか聞こえないんだけど」
ぼくは、母親の断片的な聴力と被害妄想と脳内変換に乾杯したくなる。
「誤れば済むものを…」
手をパキポキ鳴らさせて、スイッチの入ったわが母、セレン。ぼくの選択肢には逃げるしか残されていない。
いかれる鬼を残して急いでドアの外へ出た。背中に罵声を背負いながら。
最初のコメントを投稿しよう!