何と夏がやってきました。

3/3
前へ
/3ページ
次へ
僕たちは、寒さを、寒さだけを楽しまなければならない。 ここ30年で何の因果関係か、世界平均気温は摂氏において、5度下がった。当時の人々は、次々と凍死して、人口は実に世界で、2億人減ったという。 冬はもう凍てつくような寒さ。あたりは雪景色なんてざらだし、みんな厚着で昔の映画を見てみると、うらやましくなる。無いものねだりが得意の現人類。探求はやめ、昔の道具の使い方も忘れ、仕組みも忘れ、退化していくのみの私たちはなぜ、発展をあきらめてしまったのだろう。 答えは、そう、寒いからだ。生物は温暖な気候を好む。そりゃそうだ。あったかいほうがエネルギーが湧き出るからな。やる気が起きないわけだ。そう、つまり私たちは、昔心配していた地球温暖化を推し進めるべきなのである。 ※*※*※ 「ごはんよー」 「うん」 おっと忘れていた。紹介する。これが僕の母親、館林ヘレンだ。外国風の名前が流行ってた第二次ドキュンネームブームに生まれてしまった、可哀想な人物である。 「何話しているのよ」 おっとまずい。僕の悪い癖、独り言が出てしまった。 「なんだって? もう一回行ってごらんなさい。今なら怒らないから」 何かの勘違いだっ、ってもう怒ってるじゃん。 「なんだって?」 「えっとだから、おっとまずい、おれの悪い癖、独り言が出てしまった。っていたんだよ」 「どう聞いても、おっとまずい、お前の顔が悪い、くっ、独り言を言ってしまったぜ。にしか聞こえないんだけど」 ぼくは、母親の断片的な聴力と被害妄想と脳内変換に乾杯したくなる。 「誤れば済むものを…」 手をパキポキ鳴らさせて、スイッチの入ったわが母、セレン。ぼくの選択肢には逃げるしか残されていない。 いかれる鬼を残して急いでドアの外へ出た。背中に罵声を背負いながら。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加