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「おやおや、あんたも捨てられたのかい?」
気の抜けた調子の声が聞こえた。
いつの間にか、目の前に知らない猫がいた。
灰色の小さな猫。
私はびっくりして、怖くなった。
けれどその猫はそんなこと気にもしない様子でツカツカと近づいてくる。
それよりも、灰色猫の言葉が耳に残った。
「……捨てられた?」
公園に置かれた段ボール。その中に入れられた毛布と私。
灰色猫は段ボールの中をのぞき込む。
「オイラもあんたと同じ捨て猫さ。仲良くしようぜ」
などと言ってくるが、私は首を横にふった。
私が捨て猫? 冗談じゃない。私はピョンと段ボールを飛び出した。
「おいおい、どこへ行くんだ?」
灰色猫の心配そうな声を背中に、白い尻尾を振りながら早足で歩いた。
どこへ行くかって? そんなの分かるわけないわ。
私は捨てられたんじゃない。
そう、自由になったのよ。
もう大人の猫だもの。
自立して、独り立ちして、旅にでも出るんだわ。
どこか落ち着ける場所で私だけの住処を作って、幸せに暮らすんだわ。
公園を出て、知らない道路を歩きながら思い出した。
あ、毛布を忘れてきちゃった。
途端に、空気が冷たく感じる。
もう戻れない。公園にも、あの頃にも……。
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