【好きと言われたから好きになったのに】

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「身を引きたい……って、どういう意味?」  仮にも告白してきたのは彼の方だ、普通に「別れよう」とは言い辛いからかなと思った私に、彼は私の顔から視線を背けたまま、言った。 「だってさ、先輩、頭いいから、やっぱ夏休みは受験勉強に専念したいでしょ? 俺もさ、あんま声、かけ辛いし。だからさ」  その先は察してくれってことね。まぁ、普通に察することならできるけど。だから、 「わかった。ありがとう、私のこと気遣ってくれて」  そこまで笑顔で言えた自分、偉い。だけど。 「でもさ、これって、実質お別れってことだよね? 受験が終わったからじゃあまた再開とか、そんな単純な話じゃないよね? だから、今、言うね。今までありがとう。ハルくんも頑張ってね」  沈黙が嫌だったから、私はそれだけ言うとすぐに踵を返して彼の前から立ち去った。後ろは振り向かなかった。振り向けなかった。だって私、泣いてたから。  なんで泣いてるの、私。告白されたから、勢いでキスなんてしちゃったから付き合ってただけで、けど中学生と高校生のお小遣いで行ける場所なんで限られてたから、お互い休みの日には隣の大きな市にある大きな図書館で過ごすことがほとんどで、そこで私は彼の受験勉強に付き合って、合格発表の日はこっそり変装して付いて来て、合格番号見つけた瞬間はさすがに二人で抱き合ったっけね。  けどそれ以外は本当に、たわいもない日常でしかなく。もっともその日常も明日からと今日までで少し違うものになるのかな、そう思ったら家に帰り着いても全然、涙が止まってくれなくて。
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