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「ひーなの!」
卒業式の日になってようやく、『廊下は走らない』を実践できた彼女にけれども腕にはぶら下がられながら、私が「なぁに」と返してやれば。
「合格おめでしょう! まぁ、ひな乃なら間違いあるわけないけどね」
「そういう沙耶果は留年おめでとう?」
「おめでたくない! ひな乃と一緒にするな!」
そう言いつつも彼女は顔は笑っていたから。
「来年、先輩と後輩でお会いしましょ?」
「ひな乃のそういうとこ、案外嫌いじゃないよ」
さすがに拗ねて尖らせた唇で、けれども彼女の言葉はいつでも正直だから、私も彼女のことは嫌いじゃない。腐れ縁にして無二の親友って感じ。けど。
「そんじゃ、ひな乃。来年の後輩ちゃんと、再来年の後輩くんについて、今からよろしくね」
「再来年の後輩?」
「だって、ほら」
高校の卒業式に参加するのは、やっぱり卒業する三年生と、その三年生を送るための二年生しか登校してこないはずなのに。
再来年の後輩って。
「大学合格おめでとう、先輩。だからまた俺と付き合ってください」
中学卒業の時はいっぱいいっぱい過ぎて、ただ告白するだけに精一杯だった少年はただ学ランに身を包んでいただけだったけど。
高校一年生の彼は、ブレザー姿に黄色いクロッカスの花束を持っていて。
───黄色のクロカッスの花言葉、それは。
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