【好きと言われたから好きになったのに】

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「ごめんね、先輩。俺の言葉足らずで傷つけて。姉貴にすっげー怒られたよ。だから、これはあの時、伝えきれなかった俺の想いの代弁。先輩より二つ年下で頼りないかもしれないけれど、俺をこれからはずっと信じてください」  クロッカス自体の花言葉は『青春の喜び』であり、こと黄色のクロッカスには『私を信じて』の意味があって。  彼のあの時の言葉は本当に、言葉通りの意味だったんだと分かったら、あの時、泣くほど後悔した自分の愚かさに涙が出てきてしまい。  慌ててフォローしてくれようとした沙耶果とハルくん───波瑠果に私は違うの、と自分の言葉を恐れずに紡いだ。 「あのね、私、ハルくんのことが怖いくらい好きになってて。だからいつも不安だったの。ハルくん、どんどん男っぷり上がっていくし。沙耶果に図星指されても、私、気づかない振りしたよね。だからハルくんに受験を理由に距離開けようって言われた時、罰が当たったんだと思った。私みたいな素直じゃない人間にハルくんはやっぱり相応しくないんだって。だから、嬉しい。ありがとう、ハルくん。それに沙耶果も。可愛い弟の彼女がこんな可愛くない悪友でいいの?」  クロッカスを挟んでハルくんの前に立ちながら、沙耶果へと振り返れば、彼女はなぜが一番に得意気な顔をしていて。 「うちの弟任せられるのは、ひな乃しか居ないって最初から思ってたし!」  そう言って、私の背中を押した沙耶果は、ハルくんの腕の中にわざと突き落としてくれたに違いなく。  思わず目と目が合ってしまった私達。そして今日は中学と高校の違いはあっても卒業式の日で。  以前は同じ高さで近寄るだけで触れること出来たハルくん───波瑠果が首を傾けて私の元まで降りてきてくれてやっと重なった唇に、きみの『好き』と私の『好き』は、少なくとも最初にキスした時とは逆転していると思わずにいられない私が彼に花を渡し返すとしたら。  赤いゼラニウム───『きみありて幸福』───を捧げたいと思った。 【Fin.】
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