1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ

 *  特別な感情なんてなかった。  だって私には強い想いが元々ない。  好きだったり、嫌いだったりはある。でもそれだけ。身体が熱くなるほど夢中になるものはなかった。  気づいたのは小学生の時。  将来の夢を描きましょうなんて言われて、画用紙を配られた。真っ白なそれを見ていたら、突然わからなくなったんだ。  私は何になりたいんだろうって。  まだ十歳にもならない私。将来なんて考えたこともなかった。  それよりびっくりしたのは、まわりのクラスメイトが当たり前に絵を描き始めたこと。  お花屋さん、おもちゃ屋さんなんていう可愛い夢。公務員、銀行員、先生なんて、現実的な夢。怪獣、ヒーロー、魔法少女なんて、夢見すぎな夢。  どんな将来の姿も、私にとって……それが夢だった。  なりたいものがある。  泣きたくなるほどに、悔しくて辛かった。  多分、それが始めての感情の爆発。 「月宮(つきみや)? 何泣いてんの?」 「まなかちゃん?」  夢中になるほどの夢なんて今までなかった。  だから、欲しくて欲しくてたまらない。  欲しい……。  私に初めて生まれた感情のような気がした。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!