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特別な感情なんてなかった。
だって私には強い想いが元々ない。
好きだったり、嫌いだったりはある。でもそれだけ。身体が熱くなるほど夢中になるものはなかった。
気づいたのは小学生の時。
将来の夢を描きましょうなんて言われて、画用紙を配られた。真っ白なそれを見ていたら、突然わからなくなったんだ。
私は何になりたいんだろうって。
まだ十歳にもならない私。将来なんて考えたこともなかった。
それよりびっくりしたのは、まわりのクラスメイトが当たり前に絵を描き始めたこと。
お花屋さん、おもちゃ屋さんなんていう可愛い夢。公務員、銀行員、先生なんて、現実的な夢。怪獣、ヒーロー、魔法少女なんて、夢見すぎな夢。
どんな将来の姿も、私にとって……それが夢だった。
なりたいものがある。
泣きたくなるほどに、悔しくて辛かった。
多分、それが始めての感情の爆発。
「月宮? 何泣いてんの?」
「まなかちゃん?」
夢中になるほどの夢なんて今までなかった。
だから、欲しくて欲しくてたまらない。
欲しい……。
私に初めて生まれた感情のような気がした。
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