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笑顔で、さようなら
彼は真剣な顔でこう言った。
「実は……好きな人ができたんだ」
「そっか」
なんとなく気づいていたから、私はさして驚かなかった。
それよりも、正直に話してくれたことに、どこか嬉しさを感じていた。
一方、彼は気まずいようで、力強い眼差しは時より宙を泳いでいた。
手に持った写真立てを何度も持ち直して、どうやら落ち着かないようだ。
そんな彼の様子がおかしくて、私は悪戯っぽい微笑を浮かべた。
「どんな子なの?」
「職場の後輩なんだけど、優しくて、しっかりしてて、料理も上手くて」
私は少しむくれてみた。
「私とは大違いというわけね」
「決して君と比べているわけではないんだよ?
ただ、俺が辛い時、死ぬことさえ考えていた時、あの子が支えてくれたんだ。
あの子がいたから今の俺があるんだ」
「……分かってるわよ」
少し悲しかった。寂しかった。
「私ではあなたを支えられないものね」
こうなってしまっては、支えるどころか傷つけてしまう。重荷になってしまう。
私たちは、いや、私は変わってしまったのだ。だから、
「だから俺、これからはあの子と生きていくよ」
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