「シルバーリングは水の底」

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 二人で水底のシルバーリングを見つけ出し、プールサイドに上がった。  そこで私はふと疑問に行き当たる。 「そういえば、どうして私の指輪を見つけに来てくれたの?」  少年はバツの悪い表情になる。  彼はタオルで手を拭くと、バッグから封筒を手渡してきた。  封筒を開くと、千葉にあるのに東京を名乗っているテーマパークの招待券があった。  私の不思議そうな目を受けて、少年がしどろもどろに説明を始める。 「あの、うちの親父が株主優待かなんかで、ここのチケットもらってさ。それで、もう夏休み来ちゃうから。けど学校で言うのも恥ずかったから、一緒に行かないかってメモと一緒にカバンに入れとこうとしたんだけど、それでたまたま指輪を見つけて」  それではどうしてプールまで持ち込んだのかということに繋がっていないなと私は疑問に思う。 「なんだろうこれ、もしかして彼氏とかからかなって思って見てたら、友達が入ってきちゃって、慌ててプールまで逃げたんだ。それで指輪を持っていっちゃって。そしたら諏訪原が、あいつさ、俺が指輪持ってるのに気付いて、見せてみろよって奪ったんだよ。それで取り返そうとして……」  プールに落としてしまった、と。  私は浅くため息をつく。 「彼氏なんていないよ。それ、お兄ちゃんの遺品なの。二年前に事故で死んじゃったから、結構大事なものなの、これ」  チェーンに通して首にかける。  シルバーリングは月明かりを跳ね返して幽かに輝く。 「ほんとにごめん」  私が気にしてないよと言っても、彼は申し訳なさそうにしていた。  だからあえて罰を受けてもらうことにする。  そっちのほうが、彼の気持ち的にも楽な気がしたのだ。 「でも、遊びに行ったら食べ物は全部ごちそうしてね」  その言葉が意味するところを理解して、少年は顔を輝かせた。  私たちは簡単に体を拭いて服に着替え、月明かりが照らす夜の通学路を歩き始めた。  夏が来るたびに、私は兄を思い出すのだろう。  だけどきっと大丈夫だ。  兄のいない夏が来るたびに、私は兄がいた夏を思い出せる。  それは後海とか悲しみとかもあるけど、それだけじゃない。  きっと、今日みたいに兄は優しく見守っていてくれている。
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