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すごい勢いで私はベッドから起き上がる。
「はっ、はっ、はっ」
全力疾走したみたいな状態だった。
枕元から声がする。
「また、あの時の夢を見たのか」
私は驚いて横を見る。
ベッドの端に兄が座っていた。
兄は私の驚いた顔を見て笑う。
「すごい辛そうにしてたからさ、心配になって」
私はゆっくりと心と呼吸を落ち着けて、弱く微笑む。
「もう、大丈夫だよ」
兄もまた弱く微笑んで、「そっか」と返した。
「あの日の夢を見た原因はいくつか考えつくの」
「そうなの?」
「まず、ちょうど二年経ってるから」
そう、ちょうど二年なのだ。
これはわりと大きな節目だと私は思う。
「それに、今日、指輪を失くしたから」
指輪は重要な遺品だった。
小さいけど綺麗なシルバーリング。
私はいつもチェーンに通して首からかけていた。
だけど今日、プールの授業中に指輪が落ちてしまった。
こともあろうに、指輪がプールの中に落ちたのだ。
もちろん、私は持ち込んでない。
それなのに男子の一人が、なぜか私の指輪を持ってきていて、しかもそれがアクシデントでプールに落ちてしまったのだ。
先生に言うと没収されるだろうから、私たちはクラスの全員で授業中ずっとさりげなく探していたのだけれど、結局指輪は見つからなかった。
男子の一人が上手いことやって、どうにかプールの水を抜かないまま先生を連れ去ることに成功したはいいのだが、指輪が見つかっていない事実は変わらない。
その日は水球部の活動もなかったから、プールはそのまま置いてある。
明日の朝にでも、潜ってみようかなと思っていた。
兄がふと言った。
「今なら見つかるんじゃない?」
「え?」
「良いアイデアがあるよ」
兄は私にウィンクして見せた。
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