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昔、お化けや幽霊を怖がっていた私に、父がポツリとこぼした言葉をなぜかいつまでも覚えていた。
「お前のばあちゃん、つまり俺の母さんとかも死んでるけどさ。お化けでもなんでも、出てこれるもんなら、出てきて欲しいよ」
普段弱音なんて絶対に吐かない父さんのそんな言葉を聞いて、なんだかすごく記憶に残っていた。
たしかに怪談で聞くお化けとかはすごく怖いけど、自分の大好きな家族なら、どんな姿ででも出てきてくれたら嬉しいものなのかもしれないと、その時なんとなく思った。
兄を事故で失った私は、その気持ちがよくわかるようになっていた。
たしかに、それがたとえどんなにおどろおどろしい姿だったとしても、またひと目でも会いたい。
またどうでもいいようなことで喧嘩したい。
また買ってきたアイスを二人で半分こしたい。
だけどそれは叶わないのだ。
兄は二年前の夏に取り残されてしまった。
もうあれから二年だ。
兄のいない夏を、私はもう二回も経験することになる。
そして今年でちょうど、私は兄と同じ年齢になる。
この夏を越えれば、私は兄が体験したことのない年月に突入することになるのだ。
兄の年齢を追い越すことになる。
きっと、お兄ちゃんは私を心配していたんだろう。
だけど、私はすでに枕元で彼に答えた。
もう大丈夫だよ。
唯一の心残りは、一緒に救急車に乗れなかったことぐらい。
でも兄はきっと、あの時すでに死んでたから一緒に乗っても乗らないでもなにも変わらなかったよと言うだろう。
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