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≪エピソード・2≫
子供の頃から好きではいたけど、自分は五つ年上のいとこのことを、けっこう本気で好きだったんだないかと気が付いた時、この恋は終わったのだと思う。
写真の専門学校を卒業し、気がつけば二十歳になっていた青年の春。思うように趣味と実益が両立出来るような運に恵まれていたわけでも、学生身分の内から名の知れた大人物にでもなっていなかった青年は、最低限の生活費を稼ぐべく、叔父がオーナーをしていたバーでの唯一の社員として雇ってくれた計らいが、思春期を迎えた頃から疎遠になっていた、いとことの交流も一役買ってくれた。
五つ年上の彼女は、この春ですでに社会人三年目を数えていて、己の父親と同じ臭いのする、しょーもない系のこの自分に、世間の厳しさと正しさを滔々と語れるだけの余裕と正当性を持っていた。
そしてそんな有り難きお言葉を授ける代償として、ここでの店の飲食代は無料という勝手なルールを作っていた。
「つーか全然、嬉しくないよな。ただでメシ加えて酒飲ませてやった上に説教を聞かせられるだけなんだから」
フォトグラファーとしての青年の成功を、一ミリでも信じて励ましてくれにやって来てくれるならまだしも。
いとこたる姉貴分に言われるがままに、曖昧に微笑んで見せるだけの青年に代わってそう言ったのは、常連客の一人だった。彼はいつも十時半過ぎに姿を表しては、ひとしきり常連同士のコミュニケーションを満喫したのち、カウンターで軽い食事をして閉店まで居るのがスタイルの彼だった。
というすでに一緒に店閉めをして一緒に帰るのが日課ですらあるくらい、気心も知れた相手だった。
だから青年とこの店(叔父がオーナーであるということ、そして彼女はその叔父の娘だと言うこと)のことを唯一よく知っている人物でもあっただけに、そんな軽口を挟んできたのだろう。事実、彼女の反応も彼の言葉だけを受け、まんざらでもない苦笑を浮かべるに留める程度だった。
けれどもそんな風にふとした瞬間、彼女と彼の間に生じる、言葉ではない空気の存在が、いつしか気になり始めていた青年だった。
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