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スポーツタオルでさっぱりした顔を吹き、首に巻いたまま洗面所から再び自室へと戻ってきた青年は、ソファの前の地べたにとりあえずの休息を求めた。
足元には常時散らばったままの、フォト関係の雑誌の山。加えて近い将来、これらの中に、今回撮ってきた写真に走り書きのメモ、殴り書きのように文字で埋められた原稿用紙がうず高くタワーを作り出すだろう。
今度は帰ってきちゃったんだな、という実感に、昨日までの日々を懐かしむ溜め息をこぼす。こぼしながら再び何気に物置の役割を果たしている本棚に目をやった。
携帯電話、マナーモードのままだったっけ。
どうしようかと思っている内に、時差ボケの頭は瞼に重くのし掛かってきて、青年に睡眠を要求してきた。
そうだね、とりあえず帰ってきたんだし。
誰にともなくそう呟くと、最後の力で体をソファベッドまで持ち上げ、スポーツタオルをそのまま肩に羽織ると、一瞬にして深い眠りに落ちた。
ステレオデッキのデジタル時計は、7と42の数字を表示していた。
受話器を取り上げたのは半ば無意識の領域でだった。
自分の分の食器を片し、いつものようにジャケットを取りにベッドルームへ戻り掛けたはずの足が、あまりに自然にそこで止まったから、手の方も勝手に十一の数字をプッシュしていた、という程度。
けれども呼び出しオンに傾ける耳の存在は、紛れもなく己の意思あってのものだった。
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