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それは何回目のコール音だったのだろう、途切れた向こうから聞こえてきた事務的な女性の声。その声にしばし黙って耳を片寄せ、彼はそっと短い言葉を残した。
受話器を置き、耳に静寂が戻ってきた頃、彼の足は何事もなかったようにベッドルームへと歩みを進め、彼の手はクローゼットからジャケットを取り出すと、すぐには羽織らずそれに腕を取ると、不意に柔らかい音を立ててまた寝返りを打った彼女の背中に静かに目がいった。けれどもその背に声はかけなかった。
いつものようにテーブルの上にメモを残し、やおらジャケットを羽織った彼の背中越しの時計の針は、いつもより一分遅い、7時46分を指していた。
『おはよう 行ってくる』
青年の携帯電話に残った7時45分の着信履歴とメッセージ。それと同じ文句を書き認め、彼は朝の時間を後にした。
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